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緊急事態宣言下で実施される『全国学力テスト』の是非を問う

第78回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■『全国学力テスト』が抱える課題

 さらに萩生田文科相は4月27日の定例記者会見で、記者からの「悉皆方式か」という質問に対して「悉皆方式で行う」と明確に答えている。そして、調査日に実施できない場合に事後的に調査を行う「後日実施」については、従来は2週間の期間が設けられていたが、今年は約1ヶ月とし、6月30日までに期間延長を行う考えを示している。

 その理由を文科省は、「新型コロナウイルス感染症の影響等を考慮し、できるだけ多くの学校、児童生徒が参加できるように」と説明している。
 もしも学校で新型コロナのクラスターが発生すれば、休校という措置をとらなくてはならなくなる。それでも1ヶ月あれば実施可能になる、との判断らしい。あくまでも、予定どおりに、そして悉皆方式による実施に文科省はこだわっているわけだ。

 しかし、文科省がずっと説明してきているように、全国学力テストの目的が調査であれば、悉皆方式ではなく抽出方式でも構わないはずである。その指摘を文科省は無視してきている。
 萩生田文科省は4月27日の会見で悉皆方式で行う理由について、「すべての教育委員会や学校において、調査結果の活用を通じた教育政策や児童生徒一人ひとりへの教育指導の改善・充実をはかることが目的であり、このため、悉皆で実施することが重要であると考えている」と述べている。

 個別の指導に役立てるためには悉皆方式でやることが必要という説明は、理屈が通っているようにも聞こえる。しかし、全国学力テストがなければ個別の指導はできないのだろうか。
 学校では授業とともに、それに付随するテストが日常的に行われている。それらを通じて、教員は個別の指導を考えているはずである。全国学力テストが無ければ個別の指導はできないとも聞こえる説明は、教員の日々の活動を軽視しているともとられかねない。

 また、悉皆方式にすることによって、自治体間や学校間での競争がエスカレートしてきていることも無視できない問題であり、それを問題視する声も大きくなってきている。それでも悉皆方式にこだわる文科省の姿勢は、競争を容認しているようにすら見える。ましてや、緊急事態宣言下においても実施するというのだから、競争を推奨しているとすら受け取れる。

 今回の全国学力テストの実施は、今後も様々な論議に発展していくと思われる。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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